中国各地の伝統的な餅の中でも希少価値が高く有名なのが江西省の特産品「弋阳年糕」(yìyángniángāo)です。
小さな村でひっそり作られていた希少な餅が今では地域活性化の柱にもなっています。弋阳年糕とはいったいどんなお餅なのでしょうか?
レッスンの内容
時間と手間がかかる希少な米-弋阳大禾谷
弋阳年糕は江西省上饒市弋陽県で栽培された「弋阳大禾谷」(yìyángdàhégǔ 弋陽大禾谷)という米を原料に作ります。
「弋阳县」(Yìyángxiàn 弋陽県)は山に囲まれた盆地で、標高400-700メートル、年間の平均気温が18度前後の大変涼しい高地に位置しています。
弋阳大禾谷は春(5月中旬から下旬)に種をまき、夏に苗を植え、秋に生育させ、冬にようやく収穫できるようになります。
それは山麓から湧き出る比較的冷たい水を利用した水田で、日照時間が短く湿度が高い環境の下、じっくりと時間をかけて育てるからです。
収穫期になると稲穂の高さは、何と人の背丈より高い180cmほどにもなります。米の粒は通常のうるち米より大きく、背は短く、形は丸く、ぷっくらとしています。
「年糕」(niángāo 餅)にするのに適しているため近隣の県でも栽培を試みましたが、不思議なことにいずれも成功しませんでした。
この土地の、この水でないと生育せず、手間暇かけても通常の米の半分ほどの生産量しかないため、弋阳大禾谷は江西省の四大品種米と称される希少価値の高い品種になったのです。

三回蒸して杵で200回つく
弋阳年糕は原料の米の名にちなみ「弋阳大禾米粿」(yìyángdàhémǐguǒ 弋陽大禾米粿)とも呼ばれます。「粿」(guǒ)とは「米の粉などで作った食品」の意味です。
Zhīsuǒyǐyìyángniángāoyǐ“sānzhēngèrbáichuí”wénmíng,
之所以弋阳年糕以“三蒸二百捶”闻名,
shì yīnwèiYìyángrénbǎzhēngshú de mǐfàntóurùgānjìng de shíjiùzhōng,
是因为弋阳人把蒸熟的米饭投入干净的石臼中,
yòngmùgùnfǎnfùchuídǎ,chuí hòuzàizhēngfǎnfùsāncì,
用木棍反复捶打,捶后再蒸反复三次,
chuídǎ qǐmǎliǎngbǎicìcáixíng。
捶打起码200次才行。
弋阳年糕が『三回蒸して二百回つく』として知られているのは、弋陽の人々が蒸しあがったもち米をきれいな石臼に入れて木の杵で繰り返しつき、ついたらまた蒸しを三度繰り返すからです。また少なくとも二百回はついてようやく出来上がります。
もち米をまず粉にしてから水と混ぜ、手でよく捏ねてから成形して蒸す製法の中国の一般的な餅と異なり、蒸したもち米を臼と杵でついて作るのは日本の製法に似ていますね。
つきたての餅はその場で村人にふるまわれます。残りは平たい小円形に形を整えてから吉祥の印を押して出来上がりです。
手作りゆえの課題
弋阳大禾谷のもつ粘り気は「糯米」(nuòmǐ もち米)と「籼米」(xiānmǐ うるち米)の中間位です。それで一度目に蒸した米にはあまり粘り気を感じません。
蒸した約50kgの米をいったん石臼に入れて細めの杵でつき、米の形をつぶしてから再び蒸籠に入れて蒸します。これを繰り返してようやく三度目に本格的な餅つきが始まります。
餅つきに使う杵は10kg以上の重さがあり、男性が三人がかりで協力して持ち上げなければ首尾よくつけません。時にはさらに二人の男性が両横から手を貸して、杵の頭を持ち上げる手助けをします。
しかも200回から300回ついてようやく餅は完成します。「加水」(jiāshuǐ 手水)のタイミングと水の量の加減も長年の経験が欠かせません。
限られた地域の人々だけで作るため高齢化の影響も伴って、餅つきの技術を持つ人材の減少がこれまでの課題でした。

弋阳年糕が地域の活性化のキーコンテンツに
以前は、この地域の小さな店が年に2-3か月間だけ弋阳年糕を加工・販売していました。ところが受注してから製造・発送する方法でネット販売したところ、中国全土から注文が入るようになりました。
また原材料と餅の両方を長期保存できないネックも解消されました。16度以下で弋阳大禾谷を保存できる冷蔵施設と弋阳年糕の製造ラインを地域の企業が完成させたので、年間を通して弋阳年糕を生産できるようになったのです。
今では長期保存が可能な真空パック包装で販売しています。さらに弋阳年糕の人気に併せて他の特産物や農産物も売れ行きが伸びました。加えて、弋阳年糕の伝統民俗餅つき技能コンテストを開催して観光客を呼び込んでいます。
こうして経済的な安定が見込めるようになったため、村に戻って弋阳大禾谷の栽培に従事するようになった若い世代も少なくありません。
まとめ
弋阳年糕が手に入ったらぜひ色々な料理に活用してみてください。「長く煮てもとろけてしまわず、甘口辛口どちらにも合い、蒸す、炒める、焼く、煮る、いずれにも適している」と評判ですよ。