ところ変われば交渉方法も変わります。日本社会では慎重に物事を進めるために「一度持ち帰って検討します」という言葉は、堅実で誠実な対応とさえ思われることでしょう。
ところがこの対応を中国企業との交渉で決しては言ってはいけません。
レッスンの内容
中国企業が目指すところ
日本企業が目指すのは「信頼感のある会社」かもしれません。しかし中国の企業が目指すところはまったく違うのです。中国企業の目的は単純です。
zhuànqián
赚钱
お金を稼ぐ
中国人経営者にとって、会社とはお金を稼ぐための道具であり、その会社の交渉相手は一緒にお金儲けをするためのパートナーにすぎません。
このことを踏まえると、「一度持ち帰って検討します」という返答が一番中国人が嫌がる返答であることがわかります。

「一度持ち帰って検討します」が意味するところ
「一度持ち帰って検討します」というと中国企業はどう感じるのでしょうか?着実に物事を進めるための誠実な対応とは思いません。
次の3つの反応を引き出してしまいます。
zhèkěbúshìdàrénwù
1,这可不是大人物
こいつは重要人物じゃないのか
shāngwùtánpàn dexiàolǜtàidī
2,商务谈判的效率太低
効率の悪いビジネス交渉だなぁ
zhègōngsī de guǎnlǐtàiluòhòu
3,这公司的管理太落后
この会社の管理は時代遅れだなぁ
重要人物じゃない
「一度持ち帰り検討します」と言うと、中国人は「自分で即決できない。上司に指示を仰がないと決定できない。そんなやつが自分との交渉に来たのか」と感じます。
中国人同士の交渉は常に即決です。契約書さえ作らないケースが多く、リスクマネジメントで細かい点を詰めることはありません。まず交渉を成立させ運用して、そのあと問題が生じたらその時話し合うのです。
即決は交渉の基本なので、それができない人物や会社との交渉は成立させたくないと感じるわけです。
効率が悪い
一度持ち帰ると、また別の日に時間を取り分けて会う必要があります。その場で決めてくれれば、一度で済むのに、同じ交渉に何度も時間をかけたくないのです。
中国人は素直にめんどくさがるので、「一度持ち帰り検討します」といった時点で、次回も時間をとりたくないという感情が沸き立つでしょう。それゆえ交渉は失敗するのです。

時代遅れの会社
中国の会社は老板(lǎobǎn)もしくは领导(lǐngdǎo)といわれる経営者にすべての決定権があります。その経営者は自分が交渉に行かない時は、決定権を部下にゆだねて交渉の場につかせます。
それでもその決定が会社の存続を決める重要な決定という場合、中国人も「この場合は即決は難しいだろう」というケースがあることを知っています。では中国ではどうしても部下だけでは決定できない時はどうしますか?
その場で電話して経営者に指示を仰ぐというのが通常スタイルです。
ですから日本人が難しい状況で悩んでいると、中国人は必ず「じゃあ今電話して確認してくれ」ということでしょう。
【日本人と中国人の感じ方の違い】
日本人はどう感じますか?「焦らされている」感じます。そこで物事を慎重に進めるため「では一度持ち帰って検討します」といいます。
中国人はどう感じますか?
決定権のある人に事情を話して相談することもできない「マニュアル化された古いスタイルの会社なんだ」と感じるわけです。
日本でも最近のIT企業などでは、スピード重視で中国と同じ即決スタイルをとっていることでしょう。「持ち帰り検討=古い会社の象徴」なのです。
中国を理解し交渉する
今回は日本企業の口癖である「一度持ち帰り検討します」という言葉の影響を考察しました。このように同じ一言でも国の文化や物事の進め方で感じ方が全く違うのです。
最近勢いがある中国企業が相手にする企業は日本企業ばかりではありません。
話し合いに時間がかかり、どうでもいい細かい点を詰めてくる割には交渉成立にはなりにくい日本企業より、即決してくれる他国企業がいいと思われるでしょう。
慎重に物事を進める交渉は日本企業間だけで行うのがいいのです。